スペシャル対談

スペシャル対談

株式会社 俄

下秋泰子

アナウンサー

中井美穂

1:PLEDGEのはじまり

中井
昨年9月に初めて俄さんのPLEDGEを知ったのですが、コンセプトなどはいつ頃から立てられたのですか。

下秋
2009年の年末頃に話が持ち上がり、2010年春、シャンティ国際ボランティア会さんに協力することが決定しました。

中井
PLEDGEが面白いのは、売上の一部をNGO法人などに寄付するブランドが多いのに、絵本を送ることに着目したところですね。あと、自分の誓いを書き込み、それが集まると絵本が贈られるというところが他にない発想ですね。

下秋
最初にこの企画を始めるにあたって考えたのは、海外で行われている華やかなチャリティイベントやパーティーなどの寄付活動が、日本人の肌に合わないのではないかなと。

中井
たしかに、文化の違いもあり、難しそうですね。

下秋
豊かな国からの「施し」じゃなくて、お互いが共にハッピーになる仕組みが作れないか、ということを一番に考えました。それぞれの夢に向かって頑張ろうという気持ちが、海外の恵まれない地域の子どもたちの夢になる。そういった、自分の幸せが誰かの幸せに繋がるという考えを元に、誰でもサイトに誓いが投稿でき、みんなの誓いが集まるごとに絵本が子どもたちに贈られるようにしました。

PLEDGEのはじまり1

中井
誓いを立てるからには守らなきゃ、って思いますよね。自分にも守るべき誓いができて、皆さんからの誓いが20個集まるとその証に絵本が1冊贈られて、それを手に取った子どもたちが喜んで読んでくれる。その姿を想像しながら自分の誓いに改めて向き合っていく、どちらにもプラスになるという仕組みですね。ところで絵本を贈ることはどこから発想されたのですか?

下秋
俄という会社が京都発祥であること、京都の文化によって育まれたことから文化的な支援ができないかと考える中で、いろんなボランティア団体を調べている時に、絵本を送る活動をされているシャンティ国際ボランティア会さんに出会いました。

中井
でもお金じゃないということは皆さんの中にあったんですね。実際はどういうところに絵本が送られるのですか。

下秋
アフガニスタンやカンボジア、ラオス、あとタイの貧困地域や、ミャンマーの難民キャンプです。

PLEDGEのはじまり2

中井
世の中には絵本に接していない子どもたちがいっぱいいる訳ですね。

下秋
はい。貧しい地域だと学校に行くことができずに、文字を学ぶ機会が無い子どもたちがたくさんいます。そんな地域でも、絵本を通じて文字を楽しく学ぶことができます。絵本が届けられる地域では「地雷・危ない・入るな」という言葉が読めずに入ってしまったり、間違って農薬を飲んでしまったりするそうです。文字を知らないこと、イコール命に関わるという事件が起こっています。

PLEDGEのはじまり3 PLEDGEのはじまり4

中井
そういうことって、識字率の高い日本ではなかなか想像つかないですよね。「そんなことが実際にあるの?」と思ってしまいますが、実状はそんな事がたくさんあるんでしょうね。
あと、やっぱり、美しいものに触れる機会が、あまりないような気がします。日々の労働だったり、おうちのお手伝いに忙しくて、美しいものを愛でる時間も発想もないかもしれないですね。
絵本を通じて、知らない世界を知る喜びを味わったり、新しい発見をすることもある。それが手元にあるのはすごいことです。
アート作品には触れられないけれども、絵本だと触れたり、そこに描いたり。あ、みんなのものだから描いちゃだめですね。自分も真似をして描いたりと、絵本には、広がりがあると感じます。

PLEDGEのはじまり5 PLEDGEのはじまり6

下秋
実際、支援活動をしておられる方のお話しを聞くと、絵本を通じて、子どもたちが情緒的にも安定してきて笑顔になるそうです。子どもたちが笑顔になると、逆に大人たちが元気づけられる事も起こっているようですよ。

中井
具体的にはどうやって寄付をするのですか?日本語の絵本をどうするんだろうと思いましたが、現地語のシールを貼っておられるんですね。

下秋
ええ、現地語訳のシールを日本語の上に貼ります。まずは皆さまから頂いた誓いの数をカウントしてNGO団体に絵本を発注します。そして届いた絵本に、社員がひとつずつ現地語の翻訳シールを貼る作業を行います。

中井
えっ、社員の方が貼っているんですか?

下秋
はい。社長はじめ、ショップのスタッフはもちろん、社員全員で貼る作業をしています。実際、自分たちの親しんだ絵本も多いので、みんな懐かしみながら楽しんで作業をしています。翻訳シールが貼られた絵本をNGOへ送り返し、そこから海外の各支援地域へ配布されるんです。

PLEDGEのはじまり7 PLEDGEのはじまり8

2:ミャンマー難民キャンプにて

中井
実際に絵本が現地に届くまでをご覧になったのですか?

下秋
はい。支援が本格的にスタートする前に、初回の支援分200冊を持って、タイとミャンマーの国境地帯にある難民キャンプへ行ってきました。

中井
うわー。TVやなんかで見るイメージしか知らないですが、現状はどうだったのですか?

下秋
行く前までは難民キャンプといえばテントが張ってあって、子どもたちは荒んでいるのかな、って思っていたのですが、実際は高床式の住居が立ち並ぶ長閑な集落といった感じで、子どもたちも元気いっぱいでとても純粋な感じなんですよ。

ミャンマー難民キャンプにて1 ミャンマー難民キャンプにて2

中井
キャンプの中に学校はあるのですか?

下秋
学校はいくつかあって、子どもたちは放課後に図書館へ集まって、送られた本を読んだり読み聞かせをしてもらったり絵を描いたりと、様々な遊びが行われています。今回訪れたキャンプには13もの少数民族が住んでいました。

ミャンマー難民キャンプにて3

中井
そっかぁ、日本にいるとたくさんの少数民族が集まっているってイメージしにくいですよね。

下秋
そこではカレン語が共通言語として使われていたのですが、言語の違う民族が絵本を通して言葉を知り、みんなで仲良く遊ぶことで、お互いの事を知ったりするそうです。キャンプでは年に1回文化祭をされるそうで、そこで自分達の民族の踊りだったり歌だったりを発表して、それぞれがそれぞれの民族を理解したり、逆に自分たちの民族の理解を深める、といった事を行っているようです。

中井
ひとつの事を通じて、自分が何者かを知って、知ることによって他者を知る、そしてお互いが理解しあう。ということですね。その第一歩になるなんて、すごく嬉しいですね。

下秋
ほんとうに意義のあることなんだと感じました。あと、子どもたちに夢を描いて貰ったんですけど、子どもたちの純粋な姿が印象的でした。

ミャンマー難民キャンプにて4 ミャンマー難民キャンプにて5

中井
どういう夢が多かったですか?

下秋
なりたい職業のほとんどは、学校の先生、お医者さん、看護師さん、あと兵士。キャンプで生まれ育った子も多く、出会える職業が限られてし まいます。兵士には驚きましたけど、子どもたちにとっては祖国で戦っている英雄ですし、純粋に憧れて祖国のために戦いたいと思ってるんです。それが現実なんですよね。

ミャンマー難民キャンプにて6

下秋
今回訪れたキャンプは出来てから20年も経つところなので、一見落ち着いて見えるけれども、住んでいる方々のお話しを聞くと様々な問題を抱えているようです。家庭訪問をさせてもらったのですが、キャンプに来て良かったことは何かと聞くと、命を狙われずにすむことが一番よかった、とおっしゃっていました。私たちの環境がいかに恵まれているかを感じずにはいられませんでした。

中井
ほんとにそうですよね。命があることが当たり前ではない、ってことですよね。

3:震災後の変化

中井
今回の震災で、私たちのものの見方がすごく変わりましたよね。俄さんとしては何か取り組みをされるのですか?

下秋
そうですね。地震直後、社員から集まったお金と会社からの寄付を合わせて1,000万円を初回の支援として3月31日に日本赤十字社に寄付しました。阪神大震災の経験からも復興の長期化が予想されたので、継続的な支援として、世界の子どもたちに絵本を贈るだけでなく、被災地へ義援金を送る支援を追加しました。ブライダルリングを1点お買い上げいただき、PLEDGEサイトに誓いを書き込むと1,000円が支援される仕組みです。

中井
そうなんですよね。継続的にやっていかないと。実現できること、自分で一生続けていけることが必要ですね。それも支援することが苦(負担)になるんじゃなくて、小さくてもいいから同時にみんなが幸せになれること、それを知って選ぶことが大切だと思います。

下秋
ところで中井さんが以前、PLEDGEで誓われた「誓い」は何ですか?

中井
私のは、かなりまじめだったんですよね。震災の前でしたが、「ちゃんと生きる」って。ちゃんと日々を生きる、ちゃんと自分自身に向き合って生きる、過去でも未来でもなく、今を一生懸命生きる、自分のできることをちゃんとする、ということですね。今をちゃんと生きないと、未来が良くなるハズが無いですよね。つい未来について悲観的になったり、過ぎたこととか起きてもいなことに時間を費やすより、今の時間を楽しめていないことの方が問題だと感じるので、今、ここに居ることを意識する、ことですね。

震災後の変化2

下秋
中井さんの誓いを震災後に聞くと、ほんとうに心に響きますね。ご自身が震災で大きく変わったと感じることはあります?

中井
自分が何もやってこなかったのではないか、ってことですね。あたりまえに思っていたこと、お金だったり、暮らしだったり、電気だったり、水だったり、商品だったり...にそれを作っている人の事や、届けている人がいることまで発想がいってなかった。自然界にただあるものじゃなくて、人の手によって、毎日働かせたり、作ったり、壊したり、整備されたりして届いていたというあたりまえのことを、意識していなかったことに気付かされました。

下秋
なるほど。

中井
じゃあ、自分の人生をどうしていくか、今までと同じように、消費していくばっかりでは自分自身の居心地が悪いし、もっと、居心地が良くなる方法がないか、同じように感じている人が増えれば、もっと大きな動きに繋がるのではないかと考えています。意識が変わりましたね。あたりまえと思っていた事があたりまえじゃなかったと、震災がある前も明日が保障されていたわけではないのに、こんなにはっきりと意識するようになりましたね。

下秋
私も間違いなく今回の震災をきっかけに、今までとは違った価値観を多くの人が共有していると感じています。消費するばかりじゃなく、新しい価値観をもった社会を作ることが、私たち自身のこれからの課題ですね。

震災後の変化4
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2011年6月19日、仙台市で「絵本の読み聞かせ会」を実施しました